HEMATOLOGIC
血液疾患
血液疾患は一般の方にはなじみが薄く、見落とされがちでありますが、専門医と連携をとって診療を行っています。
貧血(鉄欠乏性貧血)
貧血とは
貧血には、
鉄欠乏性貧血、溶血性貧血、巨赤芽球性貧血、再生不良性貧血
といった種類があります。
女性は比較的貧血になりやすいと言われていますが、これは生理や妊娠などにより体内の鉄分を失う量が多いためです。
●貧血の症状
貧血が急激に起こる事はなく、徐々に進行してきます。
貧血の原因は様々ですが、血液中の赤血球が不足して全身に運ぶ酸素量が少なくなり、体が酸素欠乏して貧血症状が起こることは共通しています。
つまり、貧血は全身の酸欠によって起こるため、貧血症状は全身に現れます。
日常起こり得そうな体調不良の症状が多く、体調の悪さを自分の体質や疲労の蓄積と考えて、貧血と気づかずに生活している人があります。
- 疲れやすい、だるい
- めまい
- 動悸や息切れ
- 吐き気
- 頭痛
- 肩こり
- 食べ物が飲み込みづらい
- 口の端が切れる
- 氷など硬いものを大量に食べたくなる氷など硬いものを大量に食べたくなる
- 爪がスプーン状になる
- 爪が割れやすい
- 枝毛・抜け毛が増える
- 肌がカサカサする
●貧血の原因
では、どうして血液中の赤血球が減少するのでしょうか?
②赤血球が破壊されている
③継続的に出血が起きている
貧血には鉄欠乏性貧血のような治りやすい貧血もあれば、生命の危険がある難病の貧血もあるため、貧血の症状が現れたからといって安易に鉄不足が貧血の原因と決めつけるのは大変危険です。
○鉄分の摂取不足が原因の場合
その際、破壊される赤血球に存在する鉄分は新しい赤血球の原料として再利用されるため、赤血球の産生サイクルで鉄分が減っていくことはありません。
しかし、私たちは日常生活の中で汗や尿、便、皮膚の剥離などによって毎日1mg程度の鉄を失っているため、毎日1mgの鉄を体内に取り込む必要があります。これは鉄を1mg摂取すればよい訳ではありません。鉄は消化管から吸収されにくいため、必要な鉄量の数倍~数十倍を摂取する必要があります。
そのためには毎日バランスのとれた食生活をする必要がありますが、ダイエットなどによって鉄分を含む食品の摂取量が落ち込むと、じわじわと鉄不足に陥り、最終的には鉄欠乏性貧血となってしまいます。
○鉄分の必要量増加が原因の場合
○赤血球の産生不良が原因の場合
腎臓の病気によって腎機能が低下し、赤血球の産生を促すエリスロポエチンというホルモンが十分に分泌されないために赤血球量が減少する腎性貧血もあります。
○赤血球が破壊されている
マラソンやサッカー、剣道など、足裏に反復衝撃が加わる運動が原因となって貧血になることもあります。このような運動を続けていると、衝撃を受けた足裏の血管内で赤血球が破壊されてしまいます。破壊の程度が軽い場合は血液中に放出されたヘモグロビンが腎臓から再吸収されるため、鉄不足や血尿が出る事もありません。しかし、継続して赤血球の破壊が続いてしまうと、ヘモグロビンの再吸収が間に合わず尿中に放出されてしまうため、体内では次第に鉄不足が起こるようになります。
赤血球が破壊されて起こる貧血の場合、一般的な貧血症状のほかに、溶け出た赤血球の成分によって黄疸が現れたり、尿の色が茶褐色になったりします。
○継続的に出血が起きている
これには過多月経や子宮筋腫のほか、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんや大腸がんなど消化器の病気があげられます。
女性の場合、生理は定期的な出血であるため貧血のリスクは高くなります。正常な生理の出血であれば、翌月の生理までに鉄分量が回復するようになっていますが、過多月経の場合は出血量が多いため、次第に貧血になっていきます。
特に子宮筋腫の場合は、子宮内膜が多くなるために生理時の出血量も多くなりやすく注意が必要です。
また、生理のない成人男性と閉経後の女性に起こる鉄欠乏性貧血では何らかの病気による出血が疑われるため、検査を受けた方がよいと考えられます。
鉄欠乏性貧血は赤血球の主原料となる鉄が不足することで起こる貧血です。貧血全体の7割を占めており最も頻度の高い貧血ですが、治りやすい貧血でもあります。鉄欠乏性貧血の原因としては以下の事が考えられます。
○食生活での鉄不足
成人男性や閉経後の女性が1日に必要とする鉄の量は1mgですが、食事から鉄分を摂っても消化管からの鉄吸収率が10%なので、食事から10mgの鉄を摂らなければなりません。
○鉄がうまく吸収できない
また胃を切除すると胃酸の分泌が行われないため、鉄の溶けにくくなり吸収率が悪くなります。
鉄欠乏性貧血は鉄不足ばかりに注目が集まりますが、体内に鉄を吸収するためにはタンパク質やビタミンが必要になります。
ダイエットなどで偏った食事をしている場合、せっかく鉄分を摂取してもうまく吸収できないことがあります。
通常は食事から得られる鉄量と排泄する鉄量のバランスがとれていますが、何らかの原因で鉄が不足すると、まず蓄えられた鉄で不足分を補います。
そのため、鉄が不足したからといってすぐに貧血の症状は現れません。
しかし、貯蔵鉄を使い切ってしまうと全身が貧血となり、症状が現れ始めます。さらに組織に鉄分がなくなると、爪がスプーン状に反り返ったり、舌の表面がツルツルになるなど、鉄欠乏性貧血特有の症状が現れてきます。
●貧血の検査
つまりヘモグロビンが少ないという事は酸素をあまり運べなくなるため、貧血症状が現れることになります。
貧血の目安となるヘモグロビン濃度の値は、血液1dL中に男性で14g以下、女性で12g以下、男女差がなくなる高齢者では11g以下が貧血と診断されます。
つまり、貧血検査の数値が7や8の場合は貧血であり、女性で数値が6の場合は正常値の半分しかヘモグロビンがなく、重度の貧血であるといえます。
より正確に診断するためにはさらにヘマトクリットやMCV(平均赤血球容積)、網赤血球などの検査も行います。
●貧血の食事
つまり、貧血は一部のものを除いていわば一種の栄養障害であり、貧血を予防する上で毎日の食事が重要になってきます。
かつて栄養状態がよくなかった時代は子供の4人に1人が貧血といわれていましたが、高度経済成長期以降は食生活が豊かになるにつれて貧血が確実に減少しました。
ところが、1990年あたりを境に再び貧血になる人が増えてきました。この飽食の時代において貧血がまた増加する事は、食生活の変化が原因であることを意味しています。
私たちが日々摂取している食事から摂る事のできる鉄分量は、1000kcalあたり5~6mg程度とされています。
若い女性は一日当たり10.5mgの鉄が必要とされており、それを食事で補うためには一日当たり2000kcal分の食事を摂取する必要があります。近年は健康やダイエットのためにカロリーを制限する傾向にあり、それに伴って鉄分の摂取量も減少しているのが現状です。貧血を改善する食生活では、食事量を減らしたとしても、鉄分や鉄の吸収を助ける栄養素の摂取量を減らさないことがポイントとなります。
○貧血の改善にはヘム鉄の摂取が必要不可欠
ヘム鉄は二価鉄という形をとっており、溶けやすくイオン化しやすいのが特徴です。一方、非ヘム鉄は三価鉄という形をとっており、消化管から吸収されにくい構造をしています。
そのため、消化管からの吸収率はヘム鉄が10~20%であるのに対し、非ヘム鉄は1~6%であり、鉄分の吸収に数倍の差があります。つまり、鉄分を効率よく摂取するには、ヘム鉄を多く含む肉や魚を摂取することが大切です。
日本人の食生活ではヘム鉄よりも非ヘム鉄を多く摂っている傾向があります。せっかく摂った非ヘム鉄を効率よく吸収するには、ビタミンCやタンパク質を多く含む食品を一緒に摂る必要があります。
貧血を改善するために鉄分を摂取しなければならない事は有名ですが、他にも血液を造るために必要な栄養素として、ビタミンB12、葉酸、ビタミンB6があります。
1999年8月に発表された「日本人の栄養所要量」の第6次改定では、従来の食事摂取基準にビタミンB12や葉酸など17の栄養素が追加されました。
この栄養所要量というのは欠乏症を防ぐ観点から設けられた必要量のことで、食事摂取基準に新たに加えられた栄養素は、今までは不足する心配がそれほどなかったのに、現在の食生活では不足する可能性が高くなった事を示唆しています。
偏った食生活にならないよう、それぞれの食品に含まれている栄養素を意識して、造血ビタミンB群を効率よく摂る必要があります。